かき氷 第3話

作/ 羽月 みゆき

「中川さーん!カラフルな格好をした人たちが来てるんですけど……」

「カ、カラフル?」

なかちゃんは勤務先のラジオ局の一室で、受付嬢からの内線電話に対して首を捻る。

「なかちゃんに会いたいって。さっきからそればかり言ってるんですよ」

困った口調から、ただ事ではない気がした。なかちゃんは急いで受付まで走った。

赤や黄や緑といった服装の集団が見えたとき、嫌な予感がした。

まさか……ニコニコレンジャー?

「あ!なかちゃん!ぼくたち来ちゃいましたー!」

赤シャツが嬉しそうに言う。

「えっと……何しに来たの?」

なかちゃんは半ば呆然としながら訊ねる。

「えー!なかちゃん、こないだ串カツろくで言ったこと、覚えていないんですか?ラジオ局で僕らが喋ると面白そうだって!」

「だから私たち、気合い入れて来ました!」

黄色のバンダナを巻いた女性が加勢する。

「ええっと……、そうだったっけ?」

なかちゃんは、こりゃまずいことになったな、と胸の裡でつぶやく。

「あのときは酔っぱらってて……。ごめんなさい。僕、よく覚えてないんですよ。いきなりラジオに出演してもらうのは、ちょっと……」

苦し紛れに言いよどむなかちゃんの肩を、背後からぽんぽんと叩く人がいた。

「中川君。この方たち、面白そうじゃない。このド派手な感じ。アドリブ効かせながら、早速出演してもらったら?」

初老の男性が楽しそうに皆を見る。たまたま通りかかったラジオ局の局長だった。

「ありがとうございます!僕たち、精一杯楽しくします!」

なかちゃんの返事を待たずして、ニコニコレンジャーは威勢よく応えた。

『みなさーん、こんにちは!‘ナカちゃんのあふた~ぬ~ん’の時間です!みんな、夏バテしてませんか?今日は、そんな暑さも吹き飛ばすくらいの、超パワフルなゲストに来てもらいました!赤、青、黄色、そして緑にピンクをまとったニコニコ……じゃなかった。えーっと……』

『ハッピーハウスからやってきました、ファミリーです!』

『ファミリーの皆さんです。えっと、彼らとは、僕の行きつけの串カツ屋で知り合ったんだけど、なんかね、すごくパワフルなの。いつも笑顔で、幸せ~って表情なの。そして目を引くのはこの服!みんな、原色大百科みたいなの。どうしてファミリーのみんなは原色を着ているの?』

『僕たちは、色からパワーをもらって生きています。色の力で、全ての人が幸せになれるんです』

『色の力か。なるほど。赤や黄色といったカラーは、どうやって決めたの?』

『僕らのファザーが決めてくれました!ファザーは、ファミリー全員の幸せを叶えてくれる存在なんです』

『ファ、ファザーね。先ほど言っていた、ハッピーハウスってところの人かな?』

『そうです!ファザーの力は偉大です。大きな愛でぼくらを包みながら、幸せの道へ導いてくれますから。いつもファザーは説いてくれます。どんな時でも、ハッピーハッピー♪と歌えば、必ず幸せが歩み寄ってくれる、と。だから僕らは歌い続けます。

ハッピーハッピーハッピーハウス♪

どんなときでもハッピータイム♪

ハッピーカラーでハッピーハッピー♪

さぁ、なかちゃんも歌ってください!』

『え……ちょっと僕は……』

『いいからいいから。歌っているうちに幸せを感じますよ。リスナーの皆さんも、一緒に歌ってください!

ハッピーハッピーハッピーハウス♪

どんなときでもハッピータイム♪』

『ファミリーのみなさん、総立ちになりました……。今、彼らは手を取り合って、歌いながらぐるぐると回っています……』

『ハッピーハッピーハッピーハウス♪

ハッピーハッピーハッピータイム♪

ラジオに乗せて、ハッピーオンエアー♪』

『えーっと……、ファミリーの皆さん、そろそろ時間です!!』

『ハッピーラジオでハッピーハッピー♪

ハッピートークでハッピーハッピー♪』

『ナカちゃんのあふた~ぬ~ん、一旦、終わります!!』

薄暗い部屋のなかで、ラジオの音声が響き渡る。

やがて、覆面の男はラジオの電源を切った。

「ふぅ……」

溜息ともとれるような声が、虚空を泳ぐ。

「なんだか、浮かない顔ですね」

白髪の男が、覆面に対して声をかけた。

「ねぇ……。彼は、『例の店』の常連なんですよね?」

覆面はラジオを見つめたまま問うた。

「はい……そうです」

「あの反応の薄さはどうしてでしょう?まったくノッていない」

「……すみません。私の努力が足りていない結果です」

白髪の男は申し訳なさそうに頭を垂れた。

「ハウス内で『例の店』を広めたばかりですし、私たちの新たな拠点として、より根付いてほしいところです」

覆面の小さな穴から覗く瞳が、かっと大きく見開いた。

「はい。一層力を入れて広めていきます」

串カツろくでは、柳原の周りを女性客が囲んでいた。

「麻衣ちゃんは巻き肩だから、イエローだね」

柳原にそう言われた麻衣はきょとんとする。

「えー。巻き肩と黄色って関係あるんですか?」

「イエローはね、金運だけじゃないんです。曲がったもの真っ直ぐに正す、という意味合いがあるんです。だから、いつもイエローのものを身につけるといいですよ」

「柳原さんに言われると、なんだか説得力あります」

麻衣は早速スマホを触り、ショッピングサイトで「黄色・夏服」の検索を始めた。

「柳原さん、私は何色ですか?」

玲子が興味津々な表情で訊ねた。

「玲子さんは口元の右下にほくろがあるでしょう?これは、太陽の隣りにある木星を表しています。木星といえば、その名の通り『木』。玲子さんは緑を身につけることによって、運気は上昇します」

「わたし、このほくろ嫌いなんですよ。切除しようかなって思ってるくらいに……」

「そんなことをしてはいけません。口元のほくろと緑の相乗効果で、玲子さんは驚くほど強運の持ち主になるでしょう」

「じゃあ、緑のものを身につけるわ!」

柳原たちのやり取りを、カウンター越しにロクとももちゃんは見ていた。

「ねぇ、ロクちゃん。最近柳原さんのテンション高いよね」

「そうだね。柳原さんのカラー診断、女子ウケいいし」

実際、柳原のカラー診断を楽しみにしてやってくるお客が増えていた。

「そんなことより、ロクちゃん。最近赤ワインにハマったの?」

「え……なんで?」

「気づいたら、店の赤ワインの種類が増えてるし。ロクちゃんいつもちびちび飲んでるから」

そう言って、ロクの手元にある、小さなワイングラスを指した。グラスには少量の赤ワインが入っている。

「うん……。最近、なんとなく美味しいなぁって思えてね」

「それに、そのリストバンドも赤だし……」

ロクの右腕には赤のバンドがつけられていた。

「これはね、一目見てかっこいいいなって思って衝動買いしたんだ。仕事中、これをつけていると、気が引き締まる感じがするんだよ」

ロクは少し照れくさそうに説明した。

閉店時間の間際。柳原は串かつろくを出ると、辺りをきょろきょろを見回す。

「パパ……待ってたよ」

存在感のある腹を突き出した、中年男性が電柱から姿を現した。

「遅くなってごめんよ。さぁ、帰ろう」

「ねぇパパ。僕、お腹すいた……」

中年男性は甘えた声を出す。

「おぉ。それはいけない。駅前のラーメン屋にでも行こうか?」

「コンビニで売ってる『がってん舎らーめん』が欲しい!今ね、期間限定で金色のパッケージなんだ!」

「金色はおまえの大好きな色だね。よしよし、じゃあコンビニ行こう」

「それとね、レッドホットチキンも!」

「わかったよ。金色と赤は最強のコンビだね」

「うん。無敵の組み合わせだから誰にも負けない!」

うさぎのようにぴょんとぴょんと跳ねながら歩く男を、瘦身の柳原は追うように夜道を歩いて行った。

この物語には、このお食事を。

食べる宝石 琥珀糖

この秋冬の流行色は、静かなナチュラルカラーと、アクセントになるドラマチックカラー。ネットや女性誌で拡散した情報は、やがてコーディネートのトレンドになっていく。では、この色は誰がいつ決めているのか。どうも自然発生的に、ではなさそうだ。発表される約2年前、世界の専門家たちが集まって選定し、各国に伝えられるらしい。采配を振るう人がいるから、お菓子の色だって意味と価値を持つ。この物語にも、そんな人の姿がちらほら見えてきた。

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