しんちゃん

作/ 羽月 みゆき

玲子としんちゃんは串カツろくで肩を並べながら、スマホを覗き込んでは「かわいい!」を連発している。

「どうしたんですか?」

二人の様子を見ながらロクは訊ねた。

「あのね、俺、最近犬を飼い始めたの。ずっと欲しかったボストンテリア。かわいくてかわいくて、目が離せないんだよ。」

しんちゃんは嬉しそうに語る。

「ポンタっていうの。わんぱくで、よく動き回るのよ」

玲子も愛おしそうに画像を眺めている。

玲子としんちゃんはつき合っているが、別々に暮らしている。マイペースなしんちゃんは自分だけの時間や空間を大切にしていた。

玲子のスマホを、ロクも覗き込んだ。

スキンヘッドで恰幅のいいしんちゃんが、子犬のボストンテリアを両腕の中で抱き締めている写真が映っている。

「ポンタ……。いいなぁ」

ロクはしみじみとつぶやく。

「あれ、ロクちゃんて犬好きだったっけ?」

「あ……。そうですね。わりと好きです」

玲子は、子犬がおもちゃで遊んでいる写真を次々に見せるが、ロクの反応は薄い。

「しんちゃんね、犬を飼うわ、部屋を防音にするために工事を入れるわで、貯金が底をついちゃいそうなのよ」

「このためにずっと頑張って働いてきたんだから。いいんだよ」

しんちゃんは、どこ吹く風といった様子でハイボールを飲み干した。

「俺さ、若い頃にベース弾いてたの。もう一度しっかりやりたくなってさ」

しんちゃんの言葉に、ロクは目を輝かせた。

「いいですね。僕も趣味でトランペットをやってます。家では演奏できないから、時々ライブハウスとかでやらせてもらってるんです」

「お!ロクちゃんトランペット吹くんだね。それはいい。今度俺の部屋で練習する?」

「え……。シンジさん、いいんですか?」

「ぜひおいでよ。ロクちゃんが好きそうな酒とつまみも用意するからさ」

「あ、ありがとうございます!」

ロクはしばらく手を動かかさずにぼんやりとしていた。

「ロクちゃーん!手羽先まだ?」

お客から声がかかり、ロクは慌てて焼きあがった手羽先を皿に乗せた。

「なんだか二人、楽しそうだねー。私も防音室に入り浸ろうかな」

玲子は、ニットから覗く胸元を強調するように、上半身をカウンターに密着させながら呟いた。

ロクは、グラマーな玲子を見向きもせずに、しんちゃんの話の続きを待つ。

「いいや。あの部屋は楽器を演奏する男だけの空間だ。玲子はリビングで酒飲んでな」

「えー。仲間外れにされちゃった。つまんなーい。」

玲子は不貞腐れながらビールをあおった。

いつの間にやら串カツろくは満席になり、店内は大賑わいだ。

暑い暑いと言って、しんちゃんがジャケットを脱いだ。

「あ……。ふたりのTシャツって……」

玲子はしんちゃんのTシャツと、ロクが来ているTシャツに、同じブランドのロゴがついていることに気づいて、思わず声を漏らした。

ロクのTシャツは、ちょうどエプロンの胸当て部分にロゴが隠れていて、しんちゃん自身も気付かなかったのだ。

「あれ!スネイク・クラブのTシャツ、ロクちゃんも着てるんだね!」

しんちゃんは驚く。

「あ……、はい。そうですね」

「俺、このブランドが好きで、いろいろ持ってるけど。ロクちゃんが着てるってのは意外だったなぁ。」

「そ、そうですね。偶然ですよね」

「このブランド。脱サラしたおじさんが、若い恋人に似合う服をデザインしたことが発祥なの。

その恋人ってのが男でさ。だから昔はそっちの世界の人たちだけに認知されていてんだよ。

デザインがかっこいいから、今ではどんな人も着るようになったんだよねー。ロクちゃん知ってた?」

「……いえ。知らなかったです……」

ロクは再び手が止まってしまう。

「あー。ロクちゃん!串カツ焦げちゃうよ!」

ももちゃんの呼びかけに気づき、ロクは慌ててフライヤーから串カツを取り出す。

「なんか今日、ロクちゃん変だよー。お疲れかな?」

ももちゃんはジョッキにお茶を注ぎ、ロクに手渡した。

「まぁ、春だからさ。こんな日もあるよ。」

しんちゃんはそう言って、味噌おでんを頬張りながら微笑む。

「ん……?」

玲子はしんちゃんとロクを交互に見遣る。

しんちゃんは左手の中指に、クロムハーツの指輪をはめている。

ロクちゃんの首元からちらちらと見えるシルバーのネックレスは――――。

玲子の視線に気づかないロクは、あたふたしながらカウンター内を動き回っていた。

この物語には、このお酒を。

芋焼酎「DAIYAME」の炭酸割り

筋書き通りの映画や推理小説、漫才には誰も興味を示さない。これ、予定調和は受けないという法則。ピッチャーがホームランを打つからドームが沸き、小兵が横綱を倒すから国技館に座布団が舞う。芋焼酎なのにライチのような香りも、定石通りじゃないから良いんだ。ロクさんなのにこの選択眼、も見る人が見たらギャップ萌えか。

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